人事領域の仕事と、趣味のバレーボールをする中で、組織論と言う大きなテーマがそれらを接ぎ木するものであるという感覚があったが、組織論の本を読むにも何から始めればよいかということで、本書にあたった。
大学時代に、『社会学の名著30』と『政治学の名著30』を読み、いくつか古典に挑戦したこともあったため、名著シリーズはなじみ深い。元々、数多の古典があるなかで、30冊選ぶという途方もないプロジェクトであるゆえに、どうしてもバイアスがかかるとは思っていたが、筆者の高尾氏は名著選定における自分自身の嗜好などに自覚的で、まえがきなどでも試行錯誤したプロセスを書かれており、かえって安心感を読むことができた。本書は、組織論の古典から、マックス・ウェーバー等の社会学近接領域や、組織論と経済学が未分化の時代からの本などに始まり、現代に通じるリーダーシップ論や組織文化論等、幅広く取り上げている。
印象に残った&読んでみたいと思った本とエッセンスを以下箇条書にしてみる。
• 14冊目『組織とリーダーシップ』 フィリップセルズニック
○ 組織は何かの目的達成のための手段として構築されるが、それが拡大し、外部環境とのかかわりや、内部環境が形成されていく過程で、社会の要求に対して特定の価値に対してコミットした特定のアイデンティティを持ち始める。これをセルズニックは組織が「制度化」すると呼ぶ
○ 制度的リーダーシップを発揮するリーダーがなすこととして、「組織のミッションと役割を設定し」「パーパスの組織への体現」を図り、「組織の一貫性(インテグリティ)の防衛」を図り、「内部葛藤の整理」と行うこと、とされている。これは、日常的に行われる外部(株主、顧客)からの要求に対して、と特定のアイデンティティを保ち続けることを目的とする
○ 至極当たり前に感じる部分もあるが、制度的リーダーシップの定義が非常にしっくりきたため、テイクノートした。
• 16冊目『DECの興亡』エドガーシャイン
○ 組織文化論というものにかねてより関心があったが、本書の紹介を読み、より興味がわいた。エドガーシャインは組織文化を3つの水準にわけ、最も基層にあるものから「基本的な前提認識(無意識ではあるものの、組織メンバーのモノの見方や意思決定を規定している価値であり、組織文化の核)」「信奉された信条や価値観(ミッションビジョンバリュー、経営理念)」「人工の産物(製品やサービスそのもの、物理的な環境としてのオフィスや、そこで使われる言葉)」と定義づけている
○ 本書では、DECの興亡を組織文化の正と負の側面で捉えたものとしている。DECは組織文化により、勃興し、そしてまた、組織文化により衰退したと。
○ こうした紹介で印象にのこったのは、組織文化をエンジニアリングするという発想。そのために専門部署をつくり、研修や講演、儀礼を通じた文化の浸透を行ったとされているが、個人的に好きな文化人類学のようなアプローチで、非常に面白いと感じた
• 17冊目『センスメーキングオーガニゼーションズ』 カールワイク
○ センスメーキングという言葉は聞きなれないが、世界を「認知(センスメーキング)と社会的現実の間のダイナミズム、すなわちセンスメーキングによって現実が構築され、同時に社会的に構成された現実がセンスメーキングを刺激し、行動を促すといった循環的関係性に着目する」見方であるとしている。個人的にはカントのコペルニクス的転回のようなイメージで、現実というものは所与に存在するものではなく、認識によって成り立つという思考風土には、比較的慣れているため、腑に落ちた部分がある。三島由紀夫の『金閣寺』も、途中認識論の話が出てくるが、センスメーキングと非常に近い考え方ではある。今回の紹介では、センスメーキングとい術語が難解であるという前提にたち、自己成就的予言や、ピレネーの地図等の興味深い概念や逸話を引いている
○ 自己成就的予言とは「もし、人々が状況を現実であると決めれば、その状況は結果において現実である」というトマスの公理から、予言が現実に影響を及ぼした結果、予言が現実化しうることを指している。わかりやすい例が、銀行の取り付け騒ぎ等である。「銀行が潰れるかもしれない」という予言や妄言?がきっかけとなり、人々が銀行からお金を引き出してしまうことで、実際に銀行が支払い不能となってしまうという現象が、過去数件起きている。ポイントは、予言や言説が間違っているか否かに関わらず、将来に対する予期を出発点として現実を捉えようとする現象として、自己成就的予言を一般化し、「自己成就的予言がセンスメーキングの基本的行為」と述べている。
○ もう一つ引用された話として「ピレネーの地図」がある。ハンガリー軍の偵察部隊がアルプス山脈で遭難し、絶望的状況に至ったが、その際に、隊員の1人がポケットから地図を見つけ、そのおかげで冷静さと希望を取り戻し、無事帰還したが、帰還後にその部隊の上官がその地図を見たところ、それはアルプス山脈ではなく、ピレネー山脈の地図だったというエピソードである。これも、一種のセンスメーキングであり、その地図が正しいか正しくないかに関わらず、地図という環境を解く手がかりが与えられ、それによって帰還に向けた行動が活性化されたという見方もできることから、まさに、認知が現実を作った事象として考えられる。
○ センスメーキングのプロセスは、定義としては「アイデンティティ構築に根付いた懐古的で有意味な環境をイナクトする社会的で進行中の抽出された手がかりが焦点となる正確性よりもっともらしさの主導」とされており、個人的に過去のバレーボール部のリーダーや選手の成長度合いを回顧すると、実感としてよくわかる。自分自身、受験勉強の際に、最初に様々な参考書を解き漁ったが、成績が伸びず、その参考書が良いか悪いかはわからないが、その参考書を何周もするようになったら成績が伸びた、という実体験があり、これはセンスメーキングに近い考え方なのかもしれないと感じた